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第20話 中小企業のSDGs経営推進マニュアルに関する調査研究

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1.はじめに

SDGsは「エスディージーズ」と読む。2015年9月に国連サミットで採択された、193の全加盟国が達成を目指す、2016年から2030年までの国際目標「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称である。「誰ひとり取り残さない」という共通理念のもとで地球規模の問題を解決するため、17の目標(図1)とそれを達成するための169のターゲット(より具体的な目標)を設定している。

「持続可能な開発」とは、「将来の世代がそのニーズを満たすための能力を損なわずに、現在のニーズを満たす開発」である。経済成長、社会的包摂、環境保護という3つの核となる要素について、トレードオフではなく調和、並立させながら将来世代も考えて取り組む開発や発展を指す。

企業が、SDGsの目標、つまり現代社会が抱えるさまざまな問題を解決するような新しい商品・サービスを世に送り出すことによって、社会課題を解決し、SDGsの目標を達成するのみならず、自社の大きな利益にもつなげる。単なる社会貢献ではなくイノベーションのチャンスと捉え積極的に取り組むことが、中長期的には自社利益の最大化をもたらす。

国内でも、官民の連携による、地域経済の主役である中小企業の技術や人材、地域資源を生かした取り組みが求められている。中小企業が経営や事業にSDGsへの貢献を取り入れることは、まさに中小企業診断士の支援を必要とする分野である。そこで、中小企業の特性を生かした実践的・効果的な取り組み方のモデルを提示し、中小企業診断士がその推進を支援するためのノウハウを確立し、包括的かつ段階的に取り組むためのマニュアルが早急に必要であると感じ、中小企業のSDGs経営を支援するための手法をまとめた。

2.中小企業にとってのSDGs経営

中小企業がSDGs経営に取り組むメリットとして、大きく4つ挙げられる(表1)。

中小企業にとってSDGsへの取り組みは、必ずしもすぐに「売上」「利益」につながるものではない。しかし、経営資源に余裕がない中小企業だからこそ、本業で利益を上げつつ、社会貢献、環境改善にも寄与するというSDGsの考え方を柔軟に推し進めやすい。地域社会、地域経済を支える中小企業は、SDGsの目標達成に欠かせない重要なプレイヤーになり得ると期待される。

では、このメリットを最大限に享受するためには、どのように進めたらよいか。基本的な手順を、次のとおり提案する(図2)。

SDGsに取り組む上でまず問われるのが、自社の経営理念である。そもそも自社は何のために経営し、何を重視し、どこに向かっているのか。従業員や顧客、取引先などステークホルダーにそれをきちんと伝えているか。ビジョン、経営指針などを組み合わせて見直し作業を行うなど、まずは従業員と一緒になって自社の進むべき方向性を確認することが重要だ。この際、SDGsへの取り組み着手を機に、改めて経営理念を明文化するとよいだろう。

また、2019年度を振り返ると、中小企業におけるSDGs元年とも言える。メディアでの露出が増え、「SDGsは国と大企業のもの」「SDGsは中小企業には関係ない」という誤解が少しずつ解消されてきた。SDGsをとりあげるメディアや産業展等を社内認知の向上に活用することも、大いに有効であろう。

SDGsの認知を深めた中小企業が次に必要とするのは、SDGsを経営に導入することである。その方法を示したものの一つとして、「SDGコンパス」がある。グローバルのSDGs浸透をリードする代表的な組織が作成に携わった世界共通のツールだ。この中で、「SDGコンパスは大きな多国籍企業に焦点をおいて開発された」ものであり、「中小企業、その他の組織も、新たな発想の基礎として、必要に応じて変更して、この指針を使用することが期待される」とある。しかしその中身は、中小企業や支援する中小企業診断士が自在に活用するにはやや複雑なものである。

そこで、次のステップである「経営への導入」で、「SDGsの理念に即した問題提起・解決策の案出」を効果的かつ効率的に行うこと、あるいはその支援をすることを狙いとして、「SDGs経営推進フレームワーク」を提案する。

3.SDGs経営推進フレームワークの提案

中小企業におけるSDGsの認知、理解、浸透のレベルについて、SDGsの「浸透度」(0~5)、および提案する「SDGs経営推進フレームワーク」(以下「フレームワーク」)を活用して適用効果が出せるかどうかの評価について仮説を置いた(表2)。その上で、浸透度1〜3の中小企業向けにフレームワークを提案する(図3)。

フレームワークは、対象企業の強みや経営資源(A)がSDGs目標(B1、B2)と結び付いて、どのような経営・事業戦略が形成され(C)、その結果どんな経営上の効果(D)や地域社会への貢献(E)をもたらすかを1枚で可視化するものである。中小企業の経営者や中小企業診断士が活用しやすい特徴や工夫を持たせた(表4)。

中小企業のさまざまな状況に応じて、多様な使い方を想定している。本報告では5つの使い方を示した(表5)。例えば「状況1」の企業については、次の手順でフレームワーク上に記載していく(図4)。

  1. 企業・経営者が貢献したい/関わりたいと考えているSDGsの目標を定め、「B1」に記載する。ここでは17個の目標のうち、目標1〜16から1ないし複数を記載する。「貧困をなくそう」のようなSDGsの表現のままでなく、自社として意味を解釈して記載してもよい。
  2. 「B1」に記載したSDGsの目標達成に向け活用できそうな企業の強み・経営資源を探し、「A」に記載する。一見関連付けが難しそうな強み・経営資源であっても、全体を俯瞰すれば有用かもしれないので、なるべく広く書く。
  3. 「B1」「A」を踏まえ、企業が進むべき方向性を経営・事業戦略として「C」に記載する。5W1Hを活用して具体的に書くとよいが、最初の段階では抽象的でも構わない。また、中小企業のリソースだけでは達成困難なものがほとんどなので、積極的に外部資源の活用も考慮し、「B2」に記載する。(SDGsの目標17に相当)
  4. 「C」の経営・事業戦略を進めた結果、得られる社内の経営上の効果や成果を「D」に、同時に達成または実現できる社外の貢献効果を「E」に、それぞれ記載する。
  5. すべての欄を一通り埋めた段階で、全体を見渡し、さらなる追加や修正を行う。

状況2~5の手順については割愛する(報告書参照)。

4.SDGs経営推進フレームワークの妥当性検証

フレームワークの有効性を確認するために、浸透度1〜3の5社、および比較検証のために浸透度4の6社、計11社(表6)を全国から選定し、ヒアリングを行った。ヒアリング結果(抜粋は表7、各社詳細は報告書参照)より、次の①〜④のとおり「SDGs浸透度1〜3の企業がSDGs経営の計画を描くために、開発したフレームワークが有効である」という結果を得た。

  1. フレームワークを用いて中小企業診断士が中小企業の経営者と対話することで、「中小企業の強みをSDGs視点で社会・地域課題解決への貢献につなげる」ことや、「SDGs視点の社会・地域課題を切り口として、自社の持続的な成長に向けた事業拡大につなげる道筋を示せる」ことを確認した。中小企業の経営とSDGsの親和性が高いことを再認識する。
  2. 全般的にSDGsの浸透度が1~3の企業から、フレームワークの有効性が高いとの回答を得る傾向があった。「自社事業とSDGsとのつながりを再認識した」「SDGsへの取り組みの方向性に気づかされた」などの意見が主な内容である。浸透度1~3の中小企業の経営者に対しては、このフレームワークを用いて働き掛けることにより、SDGs経営を進展させられると考えられる。
  3. 一方、浸透度4の中小企業からは、「既に取り組んでいる活動が、どのような成果に結び付くのかを整理できる」「SDGs活動を社内外に系統立てて説明するのに役立つ」といった意見が目立つ。浸透度4の企業では、フレームワーク自体の有効性は認められるものの、新たな気づきを得られるかという影響面の効果はさほど大きくない
  4. 総じて、中小企業の経営者が一人でフレームワークを用いて検討を進めるのは、難しいとの回答が多い。特に検討初期段階は、中小企業診断士が企業の状況を第三者的視点で把握して、フレームワーク上でどのように描いていくかリードすることが重要である。そのため中小企業診断士は、SDGsに関する基本理解、およびフレームワークの使い方の理解が必要である。

また、ヒアリングおよび検証結果を踏まえ、当初提案したフレームワーク(図3)をベースに、次の2点を組み込んだ機能拡張版を提案する(図6)。

  1. 自社の経営理念や企業目標を記載する。これにより、フレームワークを使用する過程で常にそれを意識するようになる。
  2. 経営・事業戦略の目標が複数あって、それぞれの目標を遂行するために具体的な施策を実施しているような企業においては、C「X社の経営・事業戦略」の欄を、「戦略目標」とそれを達成するための「具体的施策」に分ける。これにより、具体的な施策を列挙し、それらを戦略目標ごとにグルーピングして図示することで、企業にとって分かりやすく、また作成も容易になる。

フレームワークはA~Eのどこからでも描き始めることができ、その後も状況に合わせて内容をアップデートするために何度でも描き直せる。SDGsは将来の目標達成時期やレベルを定め、達成に至るロードマップをバックキャスティングで描くものであるため、フレームワーク上の表現も一度描いたあとに逆戻りで見直すと、有効性と実現性がいっそう高まる(図7)。

5.次ステップの課題

フレームワークを活用してSDGs経営・事業戦略を策定した中小企業は、次ステップである「目標管理との紐付け」「貢献効果の発信・開示」(図2の③④)に進む。その際にも課題があり(表8)、中小企業診断士が継続して企業を伴走支援することが重要である。

6.振り返りおよび今後に向けて

本調査研究を通して、国連や政府が推進しているSDGsの取り組みを、中小企業の経営にどのように実装していくか、一つの方向性を示すことができた。SDGsと中小企業は切っても切り離せない関係にある。本報告書が中小企業診断士にとって、SDGsの本質理解と支援アプローチの一助となり、中小企業の持続的成長に寄与できれば幸いである。

中小企業におけるSDGsの取り組み先進・成功事例の情報は、徐々に増加してきた。本調査研究においてもその情報を大いに参照・活用した。一方で、「これからSDGs」の中小企業がスタート時に身の丈に合った形で活用できるマニュアルやツールは、未だ乏しい。本調査研究は、仮説提案する浸透度に基づき「SDGs導入の先進事例や成功事例」とされる浸透度4以上の企業事例を紹介するにとどまらない。SDGsの取り組みをこれから実践・強化していくステージにある浸透度1〜3の中小企業に焦点を当て、仮説検証により「提案するフレームワークの有効性」および「中小企業と中小企業診断士が二人三脚で経営にSDGsを取り入れる第一歩の道筋」を示した点に、他所にはない大きな意義があると考える。

2020年3月頃より、国内でも新型コロナウイルス感染症による経済・経営面への影響が拡大し、中小企業にも甚大なダメージを与えている。しかしその中でも、SDGsという言葉を使うかは別にして、社会や地域の課題と向き合う考え方を普段より経営にしっかりと取り入れている中小企業ほど、いち早く新型コロナウイルス禍を乗り越える、あるいはそれに対応する事業活動を始められたところが多いと感じる。地域社会の信頼を獲得し、同時に収益面でも大きな成長を遂げた中小企業もあるのではないか。経済、社会、環境の基盤を揺るがすような事件、事故、自然災害等が生じてから考え始めるのでは遅く、日常の経営や事業に取り入れていることが肝要であろう。

今回提案した「SDGs経営推進フレームワーク」およびその活用方法は、あくまでもSDGsの経営への導入のきっかけに過ぎない。会社として大きな方向性を示すことだけでなく、プロジェクト単位、業務単位でSDGsを推進していく際にも十分に活用可能である。フレームワークは、本報告書内の形にこだわらず大いにアレンジしていただきたい。私たちが目指すところは、SDGsの経営への実装である

本マニュアルについて詳細を知りたい、自社にSDGsを導入しようと思っていてもやり方がわからない、そもそもSDGsについてもっと詳しく知りたい、というかたはぜひKSFにご連絡ください。

中小企業診断士 加藤 弘之樹

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