中小企業診断士のビジネスユニット KSF

第22話 海外進出後に留意したいポイント

1. はじめに

本稿では、海外進出後に現地で工場を運営するにあたって、人材管理の観点で気をつけておいたほうがよいと思われるポイントをいくつかご紹介していきます。事業内容、進出国、進出時期などによっても変わってきますので、すべてがそのままあてはまるわけではありませんが、海外進出を考える際の一助になれば幸いです。

2. 採用面

これから進出する場合は、現地政府へ建設確認、営業許可、法人登録などさまざまな手続きがあります。ですから最初に、人事総務担当の現地人スタッフを採用するのが望ましいです。また、日本から派遣する人がある程度英語でコミュニケーションができる前提で、採用する人も、英語がある程度話せるほうが良いです。さらに、工場のメイン機能(製造や品質管理)のリーダーを設置していきますが、日本から派遣者を送れない場合は、現地採用を中心に考えることになります。国によって有効な募集方法も異なると思いますので、人事総務スタッフとは、求める人材像をある程度明確化し、進出国の慣習を踏まえて採用活動を進めるのがいいでしょう。ほとんどの場合、職歴を見て採用可否を検討していくと思いますが、今後さらに現地での成長を志向したいと考える場合には、採用の際の要素として学歴も考慮したほうがいいと思います。学歴だけがすべてを物語るわけではありませんが、学歴がそれなりに上がってくると一定水準の教育訓練を受けていると思われ、論理的、計画的な思考力を身につけているケースが多いからです。その場合は、幹部候補として今後の会社の成長戦略など少し段階の上がった議論をできる予備軍として採用を検討したいです。

また、日本と異なり、世界では終身雇用を前提としている国がほとんどありません。したがって、一般従業員を採用するにあたっては、一定程度は退職してしまう前提で人事計画を考慮しておくのが無難です。但し、2-3か月のように短い期間で職を転々としている人の場合は、採用してもすぐ他社に行ってしまう懸念もありますので、採用は慎重に進めるべきでしょう。こういう人を採用したい場合は、職を変わった理由を面接の中でしっかり確認し、Job Hopper(職を転々とする人)かどうかを見極める必要があります。

3. 制度面

就業規則、人事制度(有給休暇日数、給与体系、賞罰規定など)を設定する必要があります。人事の専門家を雇い入れられればその人に体系を作ってもらうのがベストですが、時間的な余裕がないなどの事情がある場合は、人事制度専門のコンサルタントに依頼してある程度のフレームワークを作ってもらう方法もあります。ただし気を付けなくてはいけないのは、コンサルタントはあくまでもサポート役であって、主役は自社、どういうしくみを入れていきたいかという思想は自社で持っておきます。コンサルタントと協議しながら考えが整理できる部分もあると思いますが、それでも主役はいつでも自社という観点は常に念頭に置くべきです。

4. 文化慣習面

会社で働く以上は、従業員がみんな業務に邁進してくれるのがベストです。会社を構成しているもっとも重要な資源である人材については、それぞれの従業員が持つ文化的、宗教的背景を考慮に入れる必要があります。筆者の赴任しているイスラム教の国家では、1日5回のお祈りを捧げるのが習慣になっており、日常的にその配慮が必要です。もっとも、この場合は、現地の法制度上でお祈りの場所を準備することを義務付けられている場合もあります。

また、筆者は次のような経験をしています。昼夜二交代勤務を始めたばかりの頃、夜半過ぎに幽霊が出るという噂が工場内に飛び交いました。あるとき夜中に従業員が霊にとりつかれたと騒ぎになり従業員の中で動揺が走りました。このときは祈祷師に来てもらってお祓いをし、工場内に塩を撒いてもらって騒ぎは鎮静化しました。もともとスピリチュアルなことを信じやすい人々だったのですが、こうした文化的背景もあるのだと理解して会社運営する必要があることも知っておきたいポイントです。この場合も、日本人的感覚だけで対処するのではなく、現地スタッフの意見を聞きながら対処していく必要があります。まさに「郷に入れば郷に従え」、ですね。

5. 最後に

上記のポイントは日本で既に工場運営をされている経営者の方々にとっては当たり前のことかもしれません。それでも日々の業務に忙殺されていると失念してしまうこともあるかもしれません。時折本稿を思い起こしていただければ幸いです。

海外進出した際、その従業員に目を向けることは重要な要素だと思います。個々の従業員の想いや考え方は日本人とは異なるかもしれません。ただ、彼らを単なる使用人としてではなく、一緒にビジネスをする仲間と考え、理解に努めることは、場所が国内であろうと海外であろうと同じです。多くの経営者の皆さんが普段からされていることだと思いますが、自社で働く従業員をよりよく知ることが、ひいては貴社の大きな飛躍につながるものと思います。

貴社の海外進出が実りの多いものになるよう祈念しております。

中小企業診断士 安田 雅哉 (東南アジア在住)

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