中小企業診断士のビジネスユニット KSF

第25話 本屋さんになる為の基礎知識

企業内診断士フォーラム(KSF)では全体としての活動だけではなく、それぞれ専門性をもった分科会を結成し、更に深掘りをした活動をしています。今回はその中から「本屋経営」分科会の活動をご紹介致します。

皆さん、本屋についてはどういう印象をお持ちですか。街中から本屋が消え、電子書籍がシェアを伸ばす中、「もうオワコンだよね」と思っている方も多いのではないでしょうか。本当にそうなのか、KSFではさる2月13日に下北沢ブックショップトラベラーの「わきてんさん」こと和氣正幸さんをゲストにお迎えしてこれからの本屋経営を考えるイベントを開催しました。その和氣さん(以下わきてんさん)の当日の講義も踏まえ、これから本屋を開業したいと思う人が必要と思われる基礎知識について解説したいと思います

【本屋の種類】

 本屋は、大きく分けて、新刊書店と古書店に分かれます。特徴としては下表に纏めた通りです。

 新刊書店古書店
仕入方法委託買切り
重要な指標商品回転率在庫規模
粗利率低い(約2割)高い(約5割?)
粗利コントロール出来る出来ない

新刊書店はトーハン、日本出版販売(日販)等の取次からの委託販売でリスクを抑えている代わりに粗利率が少なく、本棚を取次に貸している賃貸業的な商売といえます。粗利率が低い以上商品の回転率を上げ、売上を増やすのが経営課題です。新しい情報の提供を目的とする雑誌は商品の回転率がよく、長期間棚を占拠することがありません。新刊書店における金のなる木と言えます。しかし現在は雑誌売上が伸び悩み、大手新刊書店ですら再編の波が押し寄せています。丸善とジュンク堂が合併し大日本印刷(DNP)の系列に、八重洲ブックセンターはトーハンの系列に入り、文教堂も事業再生ADRにより日販の傘下で再建を図る等、川上からの統合が進んでいます。

 一方で古書店は仕入リスクを全て自分で負わなくてはなりません。その分、制約されるものは少なく、値付けや陳列も自分の自由に出来ます。どの様な本を仕入れ陳列するのか、店主の腕が試される業態といえます。しかし、古書店も家賃、人件費の高騰や店主の高齢化により廃業する店も多くなっています。

【本屋を開業する前に先ず考えるべきこと】

 本屋に限らず、小売店等を開業するにあたって絶対に考えなくてはいけないのはその商売で食っていけるかということです。具体的には粗利にて固定費を賄う為の下記の式が成立するかになります。

 売上(単価×数量)×粗利率>固定費(家賃・人件費等+社長の生活費)+想定利潤

 (数量は経営形態等による上限あり)

 この際、売上数量は単価が高ければ、減少する。店舗の販売対象としての顧客が多く、その顧客にアピールできる力が強ければ増加する。という2点は考慮しておいた方がよいでしょう。

 但し、余り難しく考える必要はありません。

 例えば、月間に必要な資金が家賃100千円+諸経費50千円+自分の生活費300千円+必要利潤が50千円の合計500千円とします。粗利率が新刊書店で約2割なのですから、月の必要売上は2,500千円です。月25日営業するとしますと毎日の必要売上は100千円、1回の購入価額が1千円とすると毎日100人に販売すればよいと計算になります。

 自分で見込んだ数字が達成可能かどうかを検討し、いけると思えば開業に踏み切ればよいのですが、中々現在の状況では難しそうですね。

 商売で食っていけるのは必要条件です。しかし、今敢えて本屋を開業しようとする人は右から左に本を流せばよいと思う人はいないのではないでしょうか。大手取次の口座をとるのも大変ですし、本に愛情をもって開業したいという方の方が多いと思います。実際今増えているのは独立書店と呼ばれる店舗形態です。

【独立書店という道】

 マクロとしての出版不況とは別に、2015年以降、ただ漫然と書籍を売るだけではなく、10坪程度の広さで目の前のお客様に居心地のよい空間を提供し、お客様に向き合って本を進める場を作る独立書店が増え始めています。確かな統計ではないそうなのですが、わきてんさんによれば、2017年以降は毎年10店以上が、2020年には35店舗も独立書店は開店しているそうなのです。

では独立書店とは何なのでしょうか。わきてんさんの考えによれば「独立書店」とは

一人あるいは数人の少人数でなんらかの目的・意思をもって運営されている書店

と定義づけてよいのではとのことです。

特徴としては

・ほぼ買い切りの為、仕入は経営者の思いで厳選される。

・大手取次のルートに乗らないので、大量販売となる新刊コミックや雑誌は置いていないことが多い。

ということです。

敢えて今本屋を開業するということであれば、自己実現の一つとしてこの様な形で小さくとも自分の思いを形にし、顧客との居心地よい空間を作り上げるのが最もよいあり方なのかもしれません。又、居心地のよい空間作りを行い、カフェ等の付加価値をつけることによる収益率の向上も検討出来ます。

【古本屋さんに聞いてみた】

 さて、実際に本屋さんを開店している人はどのようなことを考えているのでしょうか。神保町の片隅で10年以上も古本屋をやっている知人に匿名を条件に古本屋をやるにあたっての疑問点をいくつか聞いてみました。

Q.古本屋をやるのに最初どれくらいの在庫を集めて開店したの?

A.先ず、棚を埋めなきゃと思って必要な本は買いまくったな。数万冊はあったと思うけど、実際埋めるとそこまで必要なかった。実際に開店するのであれば、4~5千冊あれば大丈夫だと思うよ。

Q.仕入れってどうしてるの

A.まだ当初の在庫もあるけどね。売りに来る人もいなくはないけど今はそんなにいない。年に何回かある宅買いと言われる仕入れが一番多い。家を整理したり、相続ででた本をまとめて段ボール何箱で買うんだ。うちは分野が決まっているからリストをもらって買えるかどうか決めるけど、見ないでそのまま買う本屋もあるよ。その分安くなるけど。古書組合の市場で仕入れる店もあるけど、規模は小さくなっているかな。

Q.販売ルートは

A.店頭、通販(インターネット含む)、市場があるけどね。一時は店頭をやめて通販に特化した店もあるけど、今は逆に店舗があった方がましだったといっているところもあるみたいだね。古書通販についてはメルカリに食われている、それは間違いないと思う。

Q.今古本って売れているの

A.神保町も大分厳しくなった。昔はボーナスが出るころになると、ボーナスが出た時払いでと買いあさっていた人がそれなりにいたけどね。今はかなり減ったね。

Q.月どれくらい売れているの。生活できている?

A.月数百冊は売れているけどね。経費支払ってカツカツかなあ。儲かる商売じゃないよね。

Q.独立書店についてどう思いますか

A.うちとはいき方が違うね。店主のオーラが全開で惹きつけれらる人もいれば、それを嫌がる人もいる。うちみたいな古くからの今そこにある古本屋を楽しみに来てくれる人もいるんでそういう人を相手に商売をしているよ。それも又こだわりなのかもしれないけれど。

【本屋を開店する際に先ず読むべき本】

 本屋さんを開業するにあたって過去にはノウハウをどうやって身につければよいのか分からなかったということです。しかし、今は本屋をやろうと考えた時に先ず読むべき本があります。(わきてんさんの受け売りですが)

  • 『本屋、はじめました――新刊書店Title開業の記録』(辻山良雄著、苦楽堂)…池袋Libro閉店の際の書籍マネージャーだった著者が本屋Titleの開業の記録を赤裸々に語っている。巻末にTitle事業計画書と2016年度営業成績表が添えられており、参考になる。
  • 『これからの本屋読本』 (内沼晋太郎、NHK出版)…本屋B&Bの共同オーナーの一人が本と本屋を愛する人の為に書いた教科書。本の仕入れ方大全など実用性もばっちりです。
  • 『日本の小さな本屋さん』、『続日本の小さな本屋さん』 (和氣正幸、エクスナレッジ)…言わずと知れたわきてんさんの本。写真とわきてんさんの文章から、それぞれの店主の思いが伝わってきます。自分の思いを形にする参考に是非手にとることをお勧めします。

【最後に…取り敢えず動いてみよう】

 最初は個人的にはせどりだってメルカリだっていい。本を売って人と繋がるということがそこから始まると思います。根津の一箱古本市で動いてみるのも面白いと思います。こなれてくればわきてんさんの棚貸本屋さんのオーナーになるのもよいでしょう。いつかは自分が理想とする書店空間をつくることが出来るでしょう。

 KSFには本好き、書店好きの診断士が揃っております。いつでも何なりとご相談ください。

中小企業診断士 千布 達久

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