1.はじめに
「コーポレートガバナンス・コード」とは、我が国において2015年から施行された上場会社が拠り所とすべき行動原則です。「上場会社に適用されるルールなど、中小企業の経営には関係ないのでは」と思われる方も多いと思いますが、こうしたルールが、中小企業の経営にも関わりつつあることをご紹介します。
2.コーポレートガバナンス・コードとは
「コーポレートガバナンス」とは「企業統治」などと訳され、経営の透明性向上、不祥事の抑止あるいは収益性の向上などを目指した企業活動の仕組みを指します。こうした統治体制が不十分とされていた我が国において、2015年に金融庁と東証が中心となって制定したルールがコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)です。会社の意思決定の透明性・公正性を担保しつつ、会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて「攻めのガバナンス」の実現を目指し、ひいては企業の「稼ぐ力」を向上させ、グローバル競争に打ち勝つ仕組みを強化しようとするものでした。
CGコードにおいて上場会社の取引先は「ステークホルダー」と位置づけられ、上場会社の持続的な成長と企業価値の創出は、「様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。」(CGコード 基本原則2)とされています。上場会社の成長や価値創造が「ステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果」と強調されている点については、上場会社の取引先となりうる中小企業の皆様にとって励みとなるのではないでしょうか。一方で、7年ほど前よりこうした理念が掲げられているわけですが、実際には、中小企業の皆様にとってはどう映っていますでしょうか。
3.2021年のCGコードの改正
CGコードは、昨年6月に改正が行われました。3年に一度のペースで環境変化を勘案した見直しが行われていますが、今回は本年4月より施行される市場区分の見直しに伴う対応という点でも注目を浴びました。 市場区分の見直しとは、東証市場において、「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」などの区分を廃止し、新たに市場の定義付けを行い、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つの市場を創設させる動きを指します。加えて、投資対象として国際的にも魅力ある市場となることが期待されるプライム市場上場会社は、一段高いガバナンスを目指して取組みを進めるよう、また、その他の市場の上場会社においても、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指してガバナンスの向上に取り組むようにと、CGコードの改正がなされました。
この改正の中で、今日的な論点が多くコードに取り入れられました。注目したいのは次の点です。
気候変動などの地球環境問題への配慮、…(中略)…、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。
コーポレートガバナンス・コード 補充原則2-3①
要しますと、サステナビリティ(持続可能性)を巡る課題への対応を上場会社の「重要な経営課題」と位置づける、ということです。これまでは往々にして、本業とは少し距離を置かれた位置にあったサステナビリティに関する課題が、「取引先との公正・適正な取引」を含め、重要な経営課題とされ、積極的・能動的に検討を深めるべき、とされました。
昨今、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展や働き方改革など、産業構造の転換が急速に進む中で、サプライチェーン(取引先とのつながり)の再構築が進んでいます。こうした中、中小企業をはじめとする取引先との「対話」を強化することで、公正な取引の促進とサプライチェーンの持続可能性を高めていく必要があるとの指摘がなされています。また、このような取組みが上場会社の経営戦略・経営計画などに反映されることが期待されています。
世の中の流れの速さに戸惑っている中小企業の経営者の方々もいらっしゃると思います。上場会社各社には、中小企業を含んだ健全でサステナブルな(持続可能な)サプライチェーンが構築のため、ぜひとも形式的なものではなく、実を伴った中小企業との対話と協働を一層推進していってもらいたいと思います。
後編では、「気候変動」への対応という観点で、中小企業への影響をご紹介します。
中小企業診断士 大森 達弥