与信管理という言葉をご存じでしょうか?
社会人でもあまりなじみのない方もいらっしゃるかもしれません。
まず、『与信』とは言葉の通り「取引先企業に信用を供与すること」です。BtoBの取引では、通常掛けで取引を行います。そうすると、商品やサービスはすでに提供しているが代金はまだ回収していない状態になります。それは「取引先企業は将来決まった期日に代金を払ってくれる」と信用して取引をしていることになります。
では、その支払期日までに取引先企業が倒産したらどうなってしまうでしょうか?当然支払ってもらうはずであった代金は回収できません。この取引先から代金を回収できないことを「焦げ付き」または「貸し倒れ」などといいます。
掛け取引(=与信取引ともいいます)は「将来代金を回収できないかもしれない」リスクを常に抱えています。そのため、取引先企業の情報を収集・分析し、取引企業の信用力や動向を予測・分析しながら、取引額を調整し、自社の損失を抑えながら代金をきちんと回収できるように管理していく必要があるのです。これが、与信管理です。
掛取引(与信取引)
では、代金が回収できないとどれくらい自社に影響があるのでしょうか。
以下のような取引を考えてみましょう。
もしB社が倒産したらA社には以下の影響があります。
- 利益面の損失
- 資金繰りへの影響
- 自社の信用力の低下
「利益面の損失」について詳しく考えてみます。
B社が倒産した場合、B社との取引で得られるはずであった100万円の利益を失うだけでなく、B社との取引のためにかかったコスト(仕入と経費)も回収できず、自社にとって損失となります。つまり売上の総額1,000万円が損失になるのです。
では、B社以外の取引先との新たな売上でこの損失を補おうとした場合、新たにいくらの売上を作り出す必要があるでしょうか。B社への売上が1,000万円なので新たに1,000万円の売上を作り出せばいいのでしょうか?
A社のB社以外の取引先との取引もB社と同様の利益率(10%)である場合、損失を取り戻すのに必要な新たな売上は以下の式で算出できます。
新たな売上 = 貸倒金額 ÷ 利益率
A社の事例の場合、損失を補うために必要な新たな売上は1億円(=1,000万円÷0.1)となります。新たに1億円を売り上げてようやく損失をゼロにできるのです。利益面への影響の大きさを感じて頂けたでしょうか。
特に、元々の売上が少ない中小企業にとって損失をカバーするために新たな売上を作り出すのはとても大変です。また、資金面に余裕がない企業では資金繰りが悪化し、最悪の場合、自社の倒産につながりかねません。中小企業に限らずどんな企業でも会社を存続させていくためには与信管理が大事なのです。
中小企業診断士 松永 弥子