少子高齢化が進む中、人手不足が大きな問題となっています。その一方で、高年齢者雇用制度の整備や年金制度への先行き不安から働き続けたいと考えるシニア層は増えており、シニア人材の活用は中小企業にとって重要な経営課題です。
さて2021年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、これまでの「65歳までの雇用確保」義務に加えて新たに「70歳までの就業確保」が努力義務として追加されます。これによって直ちに70歳までの雇用が企業に義務づけられるわけではありませんが、いずれ定年引上げや継続雇用等の義務化へと進む可能性はあるでしょう。 シニア人材を戦力化するためには何が必要か。今回は働きやすい環境づくりと動機づけに焦点を当て、企業側に必要な手立てについて考えてみます。
働きやすい環境を整備する
まず必要なのは、高齢者が働きやすい環境の整備です。シニア人材が活躍している企業の勤務条件には、以下のような特徴があります。(*1)
- 業務が細分化され、短時間勤務が可能である
- 身体に配慮した勤務環境を整えている
- 作業依頼や指示方法が分かりやすい
具体例でみましょう。青果卸売業A社(北海道)では、春~秋にかけて人手のかかかる青果物の梱包・搬送作業を行いますが、重労働のイメージから若手社員がなかなか集まりませんでした。そこで1日を午前と午後各4時間の短時間シフト勤務に分割し、作業時間も途中に15分の休憩をはさんだ2時間単位として、体力や集中力に不安のある人向けに工夫を行って募集したところ、60歳超の高齢者や主婦計10名の採用に成功しています。(*1)
また、社員55名のうち65歳以上が15名、最高齢は76歳という青果卸売業のB社(長崎県)では、健康に配慮して屋外の選果作業でサマータイム制を採用しています。通常の8時~17時の勤務時間を夏季には5時~12時に変更し、炎天下での業務を避ける工夫をしているのです。(*2)
作業依頼の明確化に関しては、電気機械器具製造のC社(滋賀県)では、紙ベースでの作業指示書はすべて電子化し、機器で文字を拡大して高齢者でも楽に読めるようにしています。また同社は多品種生産のため取扱部品数が非常に多いので、部品収納ケースには品番・品名とともに部品写真も張り付け、選択ミスを防止する工夫も行っています。(*2)
シニアが働きがいを感じるための動機づけ
環境が整ったら次は動機づけ。私も役職定年を迎えたシニア社員の人たちから、「現役時代に比べると補助的な業務が多いので、あまりやる気を感じない」という声を聞くことがあります。しかし若手に交じって生き生きと働く人も少なくありません。どのようにすればシニア人材は働きがいを感じるのでしょうか?
日本政策金融公庫総合研究所の行ったアンケート調査(*3)からは、中小企業で勤務する65~70歳の男性の場合、定年前は会社の業績向上や昇給・昇進に関心が強いのに対し、定年後は自分の能力活用、顧客の喜び、同僚・部下からの信頼に働きがいを感じるという結果が出ており、こうしたシニア層の仕事観にヒントがありそうです。動機づけについては3つのポイントが考えられます。
- シニアならではの活躍の場や役割を提供する
- 貢献を評価し年齢に関係なく処遇に反映する
- 経営トップとのコミュニケーションの機会を確保する
建設コンサルティング業D社(奈良県)では、シニア社員が若手社員とペアを組んで作業現場へ行き、若手に指導や助言を与えています。この取り組みでは、彼らが自分の能力発揮だけでなく、若手育成という役割も担っている点がポイントです。自分のスキルが後輩に引き継がれることに、シニア社員はやりがいを感じるでしょう。(*3)
ただし教え方が熱心になるあまり、威圧的な言動がパワハラと捉えられる可能性もあるとして、シニア社員向けにハラスメント研修を行っている企業もあります。シニア人材に技能継承を期待する場合、若手との接し方・教え方についてもしっかりした支援体制が欠かせないと思います。
シニア社員の処遇では不動産業E社(東京都)の事例が参考になります。同社では65 歳の定年以降、雇用形態は有期契約となり給与水準は下がりますが、給与は定年前の金額を基準に個々の社員の能力で決定され、部長や顧問等の肩書も維持されます。現役時代に比べれば金額は低くても、働きぶりや成果が処遇に反映される仕組みを継続しています。(*3)
シニア社員とのコミュニケーションも欠かせません。労いの気持ちを伝えたり、彼らの悩み事を聞いたりするだけでなく、ご意見番として活用することもできます。プレス板金部品加工業のF社(岐阜県)では社長がシニア社員と毎月グループ面談を行い、彼らから遠慮のない意見を聞く機会にしています。(*3)
シニア人材活用の取り組みは、シニアにとどまらず誰もが働きやすい職場づくりの推進につながります。本稿が、人手不足問題への対処や職場の活性化に参考になれば幸いです。
中小企業診断士 大橋 功
参考資料:
(*1)「中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン(本文および事例集)」
(中小企業庁 17年3月)
(*2)「65歳超雇用推進事例集2020」
(高齢・障害・求職者雇用支援機構 20年2月)
(*3)「働くシニア世代、支える中小企業」
( 日本政策金融公庫総合研究所 17年3月)